日本光電は、経営理念「病魔の克服と健康増進に先端技術で挑戦することにより世界に貢献すると共に社員の豊かな生活を創造する」の実現に向け、商品、サービス、技術、財務体質や人財などすべてにおいて、お客様はもとより、株主の皆様、お取引先様、社会から信頼されるよう全社一丸となって取り組んでいます。
近年、国境を越えた様々な社会課題に対応するため、2015年に国連で採択された持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)の達成に向けた活動が推進されています。医療分野では、先進国における高齢社会の進展や医療費の増大、新興国における基礎医療の不足や医療格差の拡大等、様々な課題が生まれ、複雑化しています。
こうした中、日本光電は、事業と企業活動を通じて、世界的な社会課題の解決やSDGsの達成に貢献すべく、サステナビリティ重要課題(マテリアリティ)を特定し、前中期経営計画「BEACON 2030 Phase I」の中に組み入れました。特に、気候変動対策はグローバル社会が直面する重要な社会課題であり、当社にとっても重要な経営課題の1つであることから、2022年 5月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)による提言への賛同を表明し、7月にTCFD提言に沿った情報開示を行いました。今後も、新中期経営計画「BEACON 2030 Phase II」のサステナビリティ重要課題(マテリアリティ)に掲げる「カーボンニュートラルの実現」「循環型経済の推進」に向けて気候変動対策を推進するとともに、TCFD提言に沿った情報開示の拡充に取り組みます。
日本光電は、事業戦略とサステナビリティ戦略の連動を一層高め、経済価値と社会価値の双方を創出することで、持続可能な社会の実現と企業価値の向上を目指します。
日本光電では、サステナビリティを推進するため、「サステナビリティ推進委員会」と「サステナビリティ推進会議」を設けるとともに、気候変動対策を含むサステナビリティの推進に社外の視点を取り入れるため、社外有識者によるアドバイザリーボードを2021年7月に設置しました。
サステナビリティ推進委員会は年2回開催され、気候変動を含むサステナビリティ活動の方向性を議論・決定しています。推進委員会委員長である社長が気候変動対策の評価や管理を行う権限を持ち、年間計画の進捗や評価について定期的に取締役会で報告しているほか、取締役会が当社における気候変動への対応を監督しています。サステナビリティ推進会議は年4回開催され、推進委員会が決定した方針や指示に基づき年間計画を策定・推進し、進捗状況を推進委員会に報告しています。
また、中期経営計画に基づき、経営層がサステナビリティに関するサステナビリティ重要課題(マテリアリティ)とKPIを設定するとともに、社内における担当部門を定めています。各担当部門を代表する推進会議メンバは、マテリアリティ・KPIの進捗状況を報告するとともに、他のメンバとの意見交換を行っています。
アドバイザリーボードミーティングは年2回開催され、気候変動対策を含むサステナビリティの推進全般について助言をいただき、活発な議論を行っています
日本光電は、気候変動に伴う国内・海外における事業活動への影響を把握するため、経営層、サステナビリティ推進委員会・推進会議メンバを中心に、リスク・機会の分析を行っています。「2℃シナリオ~{※}」および「1.5℃シナリオ~{※}」に加えて、「4℃シナリオ~{※}」等の分析手法を用いて、短期(~2027年)、中期(~2030年)、長期(~2050年)の時間軸で移行面および物理面のリスク・機会を特定し、事業への影響度や対策を検討しました。
- 2℃シナリオ:産業革命前からの世界の平均気温上昇を2℃未満とするシナリオ
1.5℃シナリオ:産業革命前からの世界の平均気温上昇を2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑えるシナリオ
4℃シナリオ:産業革命前からの世界の平均気温上昇を4℃と想定するシナリオ
各シナリオ分析の前提 |
1.5℃/2℃シナリオ |
4℃シナリオ |
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社会像 |
平均気温上昇を1.5~2℃未満に抑えるという世界的な脱炭素化に向かう社会変化が法令・規制等の整備や技術革新をもたらし、自社事業に影響を及ぼすと仮定 |
パリ協定や温室効果ガス削減の各種政策が実施されるものの、平均気温4℃上昇に伴い、自然災害の激甚化や感染症が増加し、自社事業に影響を及ぼすと仮定 |
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参照シナリオ |
移行面: |
IEA(国際エネルギー機関):STEPS(公表政策シナリオ)、NZE(2050年ネットゼロ排出シナリオ)、SDS(持続可能な開発シナリオ)等 |
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物理面: |
IPCC(気候変動に関する政府間パネル) SSP2(中間シナリオ) RCP4.5、RCP6.0、RCP8.5等(2030年~2050年の時間軸) |
脱炭素社会の実現に向けた法令・規制等の強化や医療業界における顧客意識の変化によって、環境配慮型製品やデジタルヘルスソリューション等の要請が高まり、対応コストの増加が見込まれる一方で、適切に対応すれば事業機会獲得につながる。
1.5℃/2℃シナリオの分析においては、気候変動に対して各国・各地域で脱炭素政策が強化され、当社が関わる産業にどのような影響があるかを想定しました。
脱炭素社会の進展により、炭素税・排出権取引を含めた各国・各地域の規制強化が予想されます。当社の医療機器の製造は組立生産が中心であることから、自社では温室効果ガス(GHG)を大量に排出していないものの、サプライヤーにおける部品製造工程において一定程度のGHG排出が行われています。今後、部品も含めたカーボンプライシングや環境ラベリングが義務化され、その影響が拡大した場合、お客様に安定した価格で医療機器を提供することが難しくなるリスクがあります。特に、欧州でこれらの取り組みが強化されていることから、長期ビジョン「BEACON 2030」で目標に掲げる海外売上高比率45%の達成に影響を及ぼす可能性があります。
また、当社は、CO_{2}排出量削減に取り組む中で、再生可能エネルギー・省エネルギーに資する設備・技術の導入、高効率なオフィスへの移転等を計画しており、今後も対応コストの増加が予想されます。事業面では、低環境負荷のデジタルヘルスソリューションを実現するための研究開発投資・設備投資の増加、製品筐体で使用している樹脂等の原材料価格の⾼騰や特定物質の使⽤制限等の影響が想定されます。加えて、今後需要拡大が⾒込まれる環境配慮型製品の開発が遅延した場合や環境面での医療機器⼊札条件を満たすことができなかった場合、販売機会を逸失するリスクがあります。
一方で、脱炭素化社会への対応コストの増加は一時的であると考えられることから、長期的には費用低減が期待できます。例えば、部品点数の低減と部材の最適化による原価低減や、生産性の向上やリードタイム短縮などが想定されます。また、当社はサステナビリティ重要課題(マテリアリティ)のKPIとして、「環境配慮型製品売上⽐率20%以上(2021年度から3年間累計)」を目標に掲げ、環境に配慮した製品開発を強化しています。こうした脱炭素社会への実現に向けた取り組みを拡⼤していくことで、⾦融機関・投資家による融資条件の悪化やダイベストメントを回避することができると考えています。
脱炭素政策が進まず、自然災害が激甚化していく社会では、災害医療・救急医療提供体制の増強が予想されるが、当社の部品調達や商品供給、販売・サービス活動などに多大な支障が生じるリスクがある。
4℃シナリオの分析においては、気候変動に対して各国・各地域で脱炭素政策が強化されず、平均気温は上昇を続け、自然災害が激甚化する中で物理面でのリスクが高まることが想定されます。
当社グループは、日本および世界各国で事業を行っており、各地域において気候変動に伴う自然災害や水等の資源の供給不足、感染症の拡大等が発生した場合、部品調達や商品供給、販売・サービス活動などに多大な支障が生じ、当社グループの経営成績および財務状況に甚大な影響を及ぼす可能性があります。
一方で、当社が製品およびサービスを提供する医療現場においては、気候変動に伴う自然災害や感染症の増加等により、災害医療・救急医療の重要性が一層高まることが予想されます。人の命に関わる医療機器は、大規模災害時においても円滑な供給を継続し、安定的に稼働することが社会から要請されます。当社はこれまでに、災害時においても堅牢性と耐久性を備えた除細動器、感染対策に資する医用テレメータや人工呼吸器等の供給を通じて、世界各国の医療提供体制の整備に貢献してきました。近年では、ITシステムの提供やデジタルヘルスソリューション構想の推進等により、医療現場での生産性向上や医療資源の有効活用による間接的なCO_{2}排出量の削減にも取り組んでいます。
事業インパクト:営業利益への影響 大:30億円以上 中:5億円以上 小:5億円未満
主要なリスク・機会 |
事業 インパクト |
時間軸 |
対策案 |
炭素税・排出権取引の導⼊
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小 |
中期~長期 |
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環境配慮型製品の需要増加
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リスク:小 機会:小 |
短期 |
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低環境負荷のDHS(デジタルヘルスソリューション)の需要増加
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リスク:小 機会:小 |
短期~中期 |
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原材料費(製品筐体で使用している樹脂等)の高騰
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小 |
短期~長期 |
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ステークホルダー評価
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小 |
中期~長期 |
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主要なリスク・機会 |
事業 インパクト |
時間軸 |
対策案 |
豪雨・洪水等の自然災害の甚大化
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リスク:小 機会:小 |
短期~長期 |
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水等の資源の供給不足
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リスク:小 機会:小 |
短期~長期 |
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感染症の増加
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リスク:中 機会:中 |
短期~長期 |
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日本光電グループの業務全般のリスク管理に関する基本方針等の制定、グループ全体のリスク管理体制の整備・推進状況の把握、監督は取締役会が行っています。事業遂行上のリスクを9つに分類し、それぞれのリスク分類毎に「リスク管理部門」と「リスク関係委員会」を定めています。「リスク管理部門」は、担当するリスク分類について、業務執行部門および子会社の教育やサポートを行うとともに、体制の整備・推進状況について、グループ全体のリスク管理体制の整備・推進を行う「リスク管理統括部門」に報告しています。「リスク関係委員会」は、関連するリスク分類について、マネジメントシステムの適切性・妥当性・有効性の評価等を取締役会および経営会議に報告しています。
当社グループに影響を及ぼす気候変動リスクを特定・評価するために、組織横断的なTCFD対応プロジェクトを2021年10月から開始・運営しています。TCFD対応プロジェクトで特定された気候変動リスクおよび対応策は、サステナビリティ推進委員会で審議・承認するとともに進捗管理を行っており、取締役会にも報告しています。
日本光電では、災害・事故によって業務遂行に支障をきたし損失を被るリスク、および、環境に与える影響の低減、環境汚染の予防活動が十分でなく、環境汚染等が発生し損失を被るリスクを、事業上のリスクと捉えています。各地域において気候変動に伴う自然災害や水資源の供給不足、テロ、戦争、感染症の拡大等が発生した場合、部品調達や製品供給、販売・サービス活動などに支障が生じ、当社グループの経営成績および財務状況に影響を及ぼす可能性があります。製品に使われる原材料・部品は日本をはじめ世界各国から調達していますが、調達先で供給に問題が発生した場合でも、製品の生産に影響が出ないよう代替品の検討を含めた対策を行っています。また、大規模地震が発生した時においても円滑に製品供給を継続できるよう、事業継続計画(BCP)を策定の上、全社的な教育・訓練を定期的に実施しています。
前中期経営計画「BEACON 2030 Phase I」では、環境面のサステナビリティ重要課題(マテリアリティ)である「脱炭素社会の実現」に向けて、「CO2排出量」「環境配慮型製品の機種数、該当製品売上比率」「製品・部品の廃棄量」をKPIとして設定し、取り組んできました。
CO2排出量の削減に向けては、「2023年度に売上高原単位にて2020年度比15.2%削減(ISO14001認証範囲内のScope1,2)」に取り組み、2020年度比で売上高原単位は45.8%削減、総量は39.8%削減し、目標を達成しました。
省エネルギー設備への更新、生産設備の運用変更、従業員への啓発など、各事業所で効率的なエネルギーの利用に取り組むとともに、高圧電力契約を締結している主要事業所においては、2017年度から順次再生可能エネルギーの電力に切り替えています。2023年度は国内の約46%で再生可能エネルギーを利用しており、2030年までにすべての国内事業所において、100%再生可能エネルギーへの切り替えを目指しています。
事業所の水害リスクへの対策、エネルギー効率の改善に向けては、2023年度は国内5拠点の事業所移転を実施しました。また、生産拠点で水利用の効率化を目指し、目標設定と対策強化を推進しています。
事業活動を通じた社会貢献としては、省エネルギー、小型・軽量化など地球環境に配慮した製品開発に取り組んでおり、環境配慮型製品の3年間累計売上比率20%以上を目指しています。2023年度は、環境配慮型製品の売上比率20.1%を実現しました。製品・部品の廃棄量については、2023年度の製商品除却額を2020年度比で8%削減することを目指して取り組みましたが、2020年度以降、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う需要増加や半導体の需給ひっ迫に対応するため、部品や製品の在庫を積み増したことから2020年度比で10%増加する結果となりました。
引き続き、環境配慮型製品の提供、サプライチェーンとの協働を進め、SBT目標の設定を通じて当社の環境課題を明確にし、対策を進めていきます。
環境を含むESGに関する外部評価はこちらをご覧ください。
2014年度以前の「環境報告書」、2015-2016年度の「CSRレポート」、2017年度からの「日本光電レポート(統合報告書)」はレポートライブラリに掲載しています。